路線案内です
始点 [地獄車窓]
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1人の辛気臭い顔をした青年が今、電車に乗ろうとしている。
「黄色い線の内側まで下がってお待ち下さい」
誰もいない4番線のホームに機械的なアナウンスが響き渡った数秒後、喪服を身に纏ったような黒いボディの電車が滑り込んでくる。
扉が開いて目に映ったのは、地獄に落ちた筈の兄の姿。
青年はこの兄の火葬式に出席するために電車に乗ってきた。他人に迷惑を掛けてきた、乱暴者で意地悪な兄の、バラバラになった身体を焼く為に。
しかしこの電車はそう簡単に青年を目的地まで連れて行ってはくれないのだ。
(21p)
経由 [蛇足]
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火葬式の半ば、青年は待合室には行かず屋外の喫煙所に来ていた。
兄が完全に灰と骨だけになるまで煙を燻らす。
紫煙と一緒に浮かぶ、最期に会った日のこと、子供の頃の些細な冒険、兄の笑顔、後悔…。
「もういいの?」「ありがとう」
2人には交わすべき言葉があったのかもしれない。もう、全て手遅れだけど。
青年は煙草の灰を落とし、骨を拾いに行った。
(11p)
終点 [GAME OVER THE RAINBOW]
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トンネルを抜けた青年が再び、電車に乗ろうとしている。
「黄色い線の内側までお下がりください」
青年の手にはスーパーで買った花束が握られていた。兄が死んで半年、初めて迎える盆だった。
青年はトンネルこそ抜けたが、その実目的地には辿り着いていなかった。
僥倖、精霊バイクに乗って兄が帰ってきた。
2人の結び目が解けてしまう前に、伝えよう。いい冥土の土産になるだろう。
(32p)